【第1011回】『スターシップ・トゥルーパーズ』(ポール・ヴァーホーヴェン/1997)


 TVモニターに映る戦争賛美のコマーシャル、民主主義の崩壊した近未来の地球、地球連邦では軍部を中心とした「ユートピア社会」が築かれていた。連邦政府の支配の下、一般民は市民権を得るためには軍隊に志願し、兵役につくことが必要とされていた。ブエノスアイレスのハイスクールを卒業目前のジョニー・リコ(キャスパー・ヴァン・ディーン)は、授業中に落書きしていることを担任のラズチャック(マイケル・アイアンサイド)にたしなめられる。恋人のカルメン・イバネス(デニース・リチャーズ)へタブレットに書いたキスの絵を送る。そんな彼の背中をもう1人の恋のライバルであるディジー(ディナ・メイヤー)は見つめていた。宇宙海軍のパイロットを目指す、俊才にして親友のカール(ニール・パトリック・ハリス)との昼休み。エスパーの能力を持つ彼との透視ゲーム。アメフト部のエースであるジョニーは、敵チームの最大のライヴァルであるザンダー(パトリック・マルドーン)と死闘を繰り広げる。卒業式の日、カルメンやカールと共に軍に志願した男は、最も苛酷な機動歩兵部隊に配属され、鬼教官ズィム軍曹(クランシー・ブラウン)の下、彼に恋する同級生のディジー(ディナ・メイヤー)と猛訓練の日々を経て優れた兵士に成長する。分隊長に任命された彼だが、ある日、実弾訓練で仲間のひとりを死なせてしまう。

 ロバート・F・ハインラインのSF小説『宇宙の戦士』を原作とする物語は、80年代前半より何度も映画化が取り沙汰されたが、CG/VFX技術の拙さから何度も頓挫した。1959年という冷戦時代の真っ直中、ベトナムの情勢が戦争へ向けて大きく傾いていた時期に刊行された小説は、軍国主義の復権、暴力を肯定しているとして賛否両論が巻き起こった。戦争賛美の陳腐なコマーシャル、ナチスを模した軍隊のイメージ、陰惨極まるむち打ちの虐待など、ヴァーホーヴァンの描き方はファシズム社会への冷笑が垣間見える。フィル・ティペットによるクリーチャーの造形は数百体にのぼり細かく描かれ、ウォリアー、ホッパー、プラズマ、タンカー、ブレイン、チャリオットと多岐に及ぶ。中でもピンクがかかった体色とノズルのような触覚を持つブレイン・バグの造形は何とも強烈で印象に残る。プラズマ砲とウォリアー・バグの前に、地球軍は一瞬にして10万人の戦死者を出し、攻撃は大失敗。ラズチャック愚連隊からジョニー愚連隊へ、メンターの死で人間の命の尊さ・責任を知った主人公は地球連邦軍を率い大量のアラクニドバグズたちに戦争を挑む。身体を切断され、頭をかち割られ、脳みそを吸い取られる人間たちの最期はあまりにも悲惨で見るに耐えないが、ナチスドイツの支配下にあったオランダで幼少期を過ごしたヴァーホーヴェン流の強烈な反戦映画に他ならない。

【第1010回】『ショーガール』(ポール・ヴァーホーヴェン/1995)


 ラスベガスの路上、ヒッチハイクをするノエミ・マローン(エリザベス・バークレー)はスター・ダンサーになるという夢を持ちながら、トランク一つでこの地にやって来た。幸運にも僅か数台でヒッチハイクは成功。ジェフという男の誘惑にもナイフで応戦し、ラスヴェガスのカジノに辿り着いた女は、スロット・ゲームで一山当てる。だがその後はひたすら負け続け、気付いた時にはトランクケースごとジェフに奪われ逃げられてしまう。悲嘆に暮れたノエミは隣に停めてあった車に八つ当たりしたところ、持ち主のモリー(ジーナ・ラヴェラ)に助けられる。女同士の熱い抱擁とディープ・キス、ヒロインは仕事が見つかるまでの条件でモリーの家に居候する。超高級ホテル「スターダスト」で開催中のショー「女神」の衣装係のモリーに連れられ、「女神」のトップスター、クリスタル(ジーナ・ガーション)を紹介してもらうが、彼女に冷たくあしらわれる。その夜、ノエミがヌードダンサーとして踊っている三流クラブ「チーター」に、「女神」の興行主でもあるザック(カイル・マラクラン)を連れたクリスタルが訪れた。クリスタルはノエミに、ザックを大胆に挑発するプライベート・ダンスを踊るように命じる。屈辱的なダンスは、いつしか男女3人のラヴ・ゲームに変わり、ザックはノエミに圧倒され、クリスタルもまた彼女に魅了される。

 ラスヴェガスに来たばかりのヒロインと「女神」のトップスターであるクリスタルの女同士の激しい戦い。ザックを交えた三角関係とノエミの立身出世のシンデレラ物語。ステージの内外でキャットファイトを繰り広げる女たちのプライドは、惜しげも無く裸体を晒しながら男たちの欲望のはけ口になっても、根っこの欲望は揺るがない。一攫千金とラスヴェガスの女神の座を賭けた女同士の闘い、渦巻くセックスと暴力に塗れた恥部。氷で乳首を勃起させるノエミとザックの人差し指に頼るクリスタルの対比、黒人ダンサーであるジェームズ・スミス(グレン・プラマー)との仄かなロマンス、ノエミの才能を理解したはずのジェームズの口説き文句の自己肯定感に女は喜ぶが、終盤のジェームズの敗北感に女の気持ちは一瞬で離れて行く。ジャネット・ジャクソンやポーラ・アブドゥルに比すると称された女は、自分の地位を高めてくれる男には簡単に股を開くが、それ以外の男には一切身体を売らない。シャンパンしか呑まないザックの邸宅、プライベート・プールでの野獣のような水中セックス。階段から突き飛ばした女の野心とアンドリュー・カーヴァーの卑劣なレイプ。この年のラジー賞6冠を受賞した不名誉な作品は45億円の製作費の半分も回収出来ず、90年代最低作品とも称されるが、求められるものを与えながらも絶対に消費されない女たちの姿は極めて現代的に映る。

【第1009回】『氷の微笑』(ポール・ヴァーホーヴェン/1992)


 天井の鏡に映った男女のまぐわう姿、キング・サイズのベッドの上、騎乗位で乱れる女はシルクのスカーフで男の両腕を固定し、アイスピックで男の心臓目掛けてめった刺しにする。元ロックスターでナイトクラブ経営者のジョニー・ボズの惨殺死体、傍らにはコカインが置かれ、その反応はペニスの先からも微量に検出される。サンフランシスコ市警察の刑事ニック・カラン(マイケル・ダグラス)と相棒のガス・モラン(ジョージ・ズンザ)は、被害者の恋人で美人女性作家のキャサリン・トラメル(シャロン・ストーン)を容疑者として真っ先に疑う。彼女の住所に着いた2人の刑事が尋問するのは、キャサリンではなく彼女の友人のロキシー(レイラニ・サレル)という女性だった。キャサリンは別の豪邸にいると教えられた2人は現場へと急行する。そこでは海を眺めるキャサリンの涼しげな姿があった。色白のボディにすらりと伸びた脚、うっかり着替えを覗いてしまったニックはその妖艶さの虜になる。ベス・ガーナー医師(ジーン・トリプルホーン)のカウンセリング室、ニックはいつものように診断を受けるが、動揺を隠すように軽く受け流す。キャサリンは数ヵ月前に今回の事件そっくりのミステリー『愛の痛み』を発表しており疑惑は増すが、彼女は警察の尋問を軽くクリア。キャサリンは次回作に、以前捜査中に誤って観光客を射殺してしまい「シューター」(早撃ち)とのあだ名をもつニックをモデルに小説を書くことを告げる。

 前作『トータル・リコール』で露わになったシャロン・ストーンの魅力は今作で華開く。圧倒的な美貌と不敵な笑み、男を翻弄するようなファム・ファタールな魅力に溢れたキャサリンは、エイドリアン・ラインの『危険な情事』に続き、SEXの虜になったマイケル・ダグラスを誘惑する。一見、サンフランシスコ市警の敏腕刑事に見えるニックの正体とベストの因縁、深い病巣を背負った男は汚職事件に関わるファイルがキャサリンの手に渡っていたことを知り、激怒する。だが内務課の捜査官ニールセン(ダニエル・フォン・バーゲン)に激昂する男は自分自身が疑惑の標的になるとは微塵も思っていない。ローレンス・カスダンの81年作『白いドレスの女』を真っ先に連想させる物語は、螺旋状の階段、休職を言い渡された主人公の焦燥、ファム・ファタールなヒロインへの絶対的な盲目など、アルフレッド・ヒッチコックの『めまい』や『サイコ』のようなサスペンスをあからさまに彷彿とさせる。華麗な運転技術を持ち、ニックの過去を入念に調べ上げ、常に彼の2歩3歩先を行くキャサリンの行動パターンはまさに彼女の書き上げた小説の題材と瓜二つに映る。「ビーチハウスへ」と書かれた置き手紙、背中に立てた爪、ロキシーとの生死を賭けたカー・チェイスを経て、やがて明らかになるキャサリンとある女性との緊密な関係性。正当なファム・ファタールというよりも、むしろバイ・セクシャルでサイコパスに近いキャサリンの姿、揺りかごに揺られる彼女と、警察での尋問で足を組み替える女の姿に男たちはただただ惑わされる。

【第1008回】『トータル・リコール』(ポール・ヴァーホーヴェン/1990)


 近未来の地球、ゴツゴツとしたオレンジがかった岩山、防護服に身を包んだ2人の男女は下へ落下するために手を握り、互いの気持ちを確かめ合う。だが下へ降りた途端、男のヘルメットが割れ、酸素が薄く気圧が低いため目が飛び出し、見る見るうちに顔がパンパンに膨れ上がる。ダグラス・クエイド(アーノルド・シュワルツェネッガー)は絶叫を残しながら、悪夢から目覚める。傍らには妻のローリー(シャロン・ストーン)が悪い夢から目覚めた夫を優しく介抱する。火星反乱組織クアトー(マーシャル・ベル)のニュース、TVモニターをじっと見つめる夫の視線を遮るような妻の誘惑、結婚8年目の夫婦は日頃の疲れを癒そうとヴァカンスの夢を描いている。夫の目に飛び込んだTVモニターの「リコールで夢のバカンスを」の広告、掘削場で力仕事に従事する夫は妻に反対された火星旅行を夢見る。その日訪れたリコール社、同僚の労働者ハリー(ロバート・コスタンゾ)から反対されながらも、クエイドはリコール社へ出向き、「秘密諜報員として火星を旅する」というコースを選択、夢の中のパートナーとなる女性の顔をモンタージュで選び、注射によって眠りにつくが、突然男はわめきながら暴れ出す。ようやくたどり着いた自宅であろうことか、妻のローリーの急襲を受けたダグラスは、「クエイドの記憶は全てニセモノであり、自分は妻ではなく、クエイドの監視役である」と告げられてしまう。

 『ブレードランナー』の原作者でもあるSF作家フィリップ・K・ディックが1966年に発表した小説『追憶売ります』を原作とする物語は、主人公の意識と記憶の差異を明らかにする。火星に行った記憶がない男の半生は、上層部の人間たちによって都合よく書き換えられた記憶である点が、ヴァーホーヴェンの前作『ロボコップ』の主人公アレックス・マーフィ(ピーター・ウェラー)と被る。クエイドは自分の記憶を取り戻すために火星へと向かう。悪夢にうなされるクエイドの夢に登場するローリーではない誰かのイメージ、コーヘイゲン(ロニー・コックス)の磁場と圧力、「カナダのジャック・ニコルソン」ことデヴィッド・クローネンバーグ監督の『スキャナーズ』で一躍有名になったマイケル・アイアンサイドの起用など、アクション映画としての意匠を保ちながら、最低限のSF映画としてのフィリップ・K・ディックへの敬意は垣間見える。何が正しくて何が間違っているのか指針すらもグラつく急性分裂症と診断された男は、最後の楽園で再会したメリーナ(レイチェル・ティコティン)と出会い、彼女の声に耳を傾ける。火星には植民地があり、多くの人類が居住しているが、酸素が薄く気圧が低いため防護服無しでは建物の外に出られない奇妙なバランスに苦しめられる。おぱいが3つある風俗嬢、5人の子供を持つベニー(メル・ジョンソン・Jr)のタクシー、50万年前にエイリアンが作ったリアクターを目指す男の野望は、メリーナとの永遠の愛に揺れる。