【第836回】『プレイス・ビヨンド・ザ・パインズ/宿命』(デレク・シアンフランス/2012)


 テント小屋に作られた小さな控え室、バタフライ・ナイフをバタつかせる男ルーク(ライアン・ゴズリング)に呼び出しがかかり、男は移動遊園地の喧騒の中に吸い込まれる。ルークの背中をステディカムで追いながら、やがてルークは鉄製の球体の中に収容される。回転すると同時に、遠心力をもろともせずに走り回るハンサム・ルークとハートストローブス。移動遊園地のヒーローになった男は、偶然かつての恋人ロミーナ(エヴァ・メンデス)と再会する。明日までのNY滞在、今夜を逃せばまた遠くへ行ってしまうルークはロミーナをその言葉で口説くが、女の態度はツレない。家まで送る道中、ロミーナを口説くルークは姑の腕に抱かれた坊やを発見する。「あなたの赤ん坊よ」という言葉に男は一念発起し、突如立派な父親になろうと誓う。深夜営業のダイナー、ウェートレスで糊口を凌ぐロミーナに対し、何かいうことはないかとルークは問うが、女は曖昧に言葉をはぐらかす。それもそのはず、息子と女と母親の3人は、黒人で敬虔なクリスチャンのコフィ(マハーシャラ・アリ)の家で面倒をみてもらっている。まるで『ブルー・バレンタイン』を想起させるような男女の生活設計のズレが2人の温度差を強調する。男の純粋な決断はキリスト教の洗礼に掻き消され、代父と実父の間には絶望的な距離がある。

 導入部分を観て、今作の怒涛の展開には意表を突かれる。開巻1時間近く経って主人公だと思われていた人物はこの世を去り、代わりに彼を葬ったエイブリー・クロス(ブラッドリー・クーパー)が入れ子構造のように立ち現れる。息子を救わなければならないという容疑者の妄執は、正義感で息子を守ろうとする警官の人生とオーバー・ラップし、事態は最悪な結末を迎える。ニューヨーク州スケネクタディの街の半径数十mの物語は登場人物たちをまるで呪われた因果のように結ぶ。州司法長官のエリート一家に生まれたエイブリー・クロスと、出自さえも明らかにならない生い立ちや生き様すら抹消された男の半生は、スケネクタディの数エーカーの物語として運命を運び込む。スコシージの『グッド・フェローズ』以来の悪役となるデルカ(レイ・リオッタ)の存在感が素晴らしい。脚本そのものは多少出来過ぎの匂いがしなくもないが、無情にもあの世へと旅立った主人公の思いを代弁する少年の痛みが胸を打つ。今作では女性たちのキャラクターは後退し、代わりに男たちの父性への思いは極端に前景化する。デレク・シアンフランスならではのディス・コミュニケーションやヒーローと悪役との絶望的な因果は、この小さな街で生きる家族にとっては目を伏せることの出来ない因果となる。今作で共演したライアン・ゴズリングとエヴァ・メンデスはやがて恋仲となり、2人の娘を設ける。2人の蜜月も感じさせる導入部分はしかし、ニコラス・ウィンディング・レフンの『ドライヴ』の二番煎じだと揶揄された。

【第835回】『雨の日は会えない、晴れた日は君を想う』(ジャン=マルク・ヴァレ/2015)


 早朝のニューヨーク、職場のあるウォール街までの道を妻の運転で向かうデイヴィス・ミッチェル(ジェイク・ギレンホール)の姿。30代半ばで義父が社長を務める会社で順風満帆にエリート・コースを走るデイヴィスにとって、朝の通勤中は愛する妻との貴重な会話の時間のはずだが、2人の間に会話はない。それどころか、沈黙を嫌うかのように妻はスマフォで母親と話している。デイヴィスは外の風景と義母と話す妻の姿を交互に眺めながら、虚ろな表情を浮かべているが、次の瞬間、車のボディに対向車が突き刺さる。まるで『セッション』のような激しい衝突の後、義父のフィル・イーストマン(クリス・クーパー)に呼び起こされたデイヴィスのYシャツには鮮血が飛んでいたが、顔はキレイなままである。血だらけのベッドの上には寝ているはずの妻の姿はない。助手席に座っていた男はエア・バッグとシートベルトのおかげでほとんど無傷だったが、無残にも妻は天国へと旅立った。でもデイヴィスはどういうわけか妻の死が悲しくも何ともない。最愛の妻の死で取り乱すどころか、一歩引いたところで冷静さを保ってしまう主人公の心の内は、西川美和の『永い言い訳』の衣笠幸夫(本木雅弘)を真っ先に連想させる。死因は違うが、ほとんど同じ導入場面を持った物語は同じような構造で進行するかに見えるが、脚本家ブライアン・サイプの物語はその後、奇妙な逸脱を見せる。

 ダン・ギルロイの『ナイトクローラー』同様に、無機質で純粋無垢な痛みを抱えた主人公像をジェイク・ギレンホールが見事に演じ切る。20代でパーティで知り合った妻と結婚し、当然のごとく義父の会社に入り、彼の片腕として金融業界で凌ぎを削ってきた男は、人も羨むような上流階級のエリート・コースを歩き、それなりの人生の体積があるかのように見えるが、これまでの人生は全て結果オーライでたまたま人生のレールに乗っかったに過ぎないのである。子供もいない夫婦2人暮らしの生活は、妻を失ったことで主人公は自分の半生を初めて見つめ直す。デイヴィス・ミッチェルの突発的な暴力衝動は主人公の喪失感をロジカルに繋いだ『永い言い訳』よりも、 デヴィッド・フィンチャーの99年の『ファイト・クラブ』や真利子哲也の2016年の『ディストラクション・ベイビーズ』のどうしようもなく無軌道な男たちの破壊衝動に近い。男はその破壊活動の途中で、まるでポール・トーマス・アンダーソンの『パンチドランク・ラブ』のアダム・サンドラーのように、一方通行に思えたコミュニケーションの先に、自動販売機のお客様相談室のカレン・モルノ(ナオミ・ワッツ)と出会ってしまう。

 弱者を食い物にした『パンチドランク・ラブ』とは打って変わり、ここでは妻を亡くしたデイヴィスの真実の告白(病巣)に、一回り年上の女がスマフォ越しに触れる。思わずダイナーへフライング気味に到着した主人公に、駐車場の薄明かりの中、劣悪なマリファナを吸う女は安全圏から気の毒な男の姿を凝視する。年増女と主人公の滑稽なロマンスは、やがてカレンの息子クリス・モレノ(ジュダ・ルイス)を媒介にする形で、新しい家族像を浮き彫りにする。義父の提案が元で、家にある全ての機械を部品の全てをテーブルに並べるようなシンプルな形に分解しなければならない主人公の欲求に対し、物語構造は複雑さを極める。Heartの『Crazy on You』を悲しい歌と解釈するカレンとは趣を異にするデイヴィスは「FUCK」を連呼するクリスに苦言を呈しながらも、厨二病的なクリスへの共感を隠そうとしない。それは終始、上から目線のマウントを繰り返す義父のフィル・イーストマンとは明らかなレイヤーの違いが浮き彫りになる。防弾チョッキに突発的に浴びる銃弾で生きていることを初めて実感するデイヴィスの思いは、影絵を繰り出しながら、上司の愛人になったカレンの偽りの貞淑な姿をも浮き彫りにする。自身の歩んで来た道のりの全てを否定するようなデイヴィスの心の欠損は、カレンやクリスの欠損部分にも呼応し、トラウマを感じるトライアングルは互いに傷を舐め合う。『ダラス・バイヤーズクラブ』や『わたしに会うまでの1600キロ』のように行き場を失った主人公の再生の物語は、来たるべきラストに集約される。

管理人より(早朝の部)

おはようございます。
いよいよ今夜、宇都宮での私のワークショップの第一回がスタートします。
平日のど真ん中ですが、映画が好きな人は絶対に損はさせません。
また政治・経済・世界情勢に興味がある方にとっても、タメになる話をします。
映像は全て合わせると約12時間分、準備しています。
一緒にお酒を呑みながら映画について熱く深く語り合いましょう。

2017.05.24.21:00~03:00『映画の日 #1』 charge:500yen
@Music Bar LYNCH  栃木県宇都宮市二荒町8-12
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本日のお品書き
①第70回カンヌ国際映画祭出品作品の論評 NETFLIX論争の行方
②管理人の2017年上半期良かった映画・つまらなかった映画
③2016年映画業界決算から世界情勢を見る
④シネコンがもたらすユートピアとグローバリズム
⑤「美女と野獣」論 ハリウッドとフランスの文化の決定的な違いとジャン・コクトー
⑥グザヴィエ・ドランとミソジニー問題 逆説的な女らしさ
⑦追悼・鈴木清順/根津甚八
⑧どこよりも早い『ツイン・ピークス』論とデヴィッド・リンチ監督引退について
⑨ディズニーとMCU、DCユニバースの効率性とメタ批評の可能性について
⑩LA LA LANDとデイミアン・チャゼル論

ざっと言うと45分一括りでこの辺りのマテリアルを用意しています。
まだ流れは決めていませんが、お客さんに指名してもらい、残ったものは次回に回す予定です。
一応本筋としては④がメインですから、一番人が入る時間帯は④にします。
客の入りを見てQ&Aの時間は決めますが、最低でも1時間は皆様からの疑問・質問に答えます。
ソフィア・コッポラ、ホン・サンス、トッド・ヘインズの映像マテリアルは
このブログでも紹介していない本邦初公開の映像になります。凄いですよ 笑。
一応料理人のオススメは、①②③⑧⑩辺りですが、一番指名して欲しいのは間違いなく⑦です 笑。
根津さんのおそらくここでしか見られない映像マテリアルが流れます。

場所は地図がないので申し訳ないですがググって下さい。
遠方からお越しの際は、JR宇都宮駅から関東バスに乗り、二荒山神社前で降りて徒歩4分です。
東武宇都宮駅からお越しの際は、オリオン通りを抜けて徒歩9分くらいです。
店の電話番号 028-636-5999 も明記しておきますので、
どうしても辿り着けない場合は連絡を下さい。店主がきっと親切に教えてくれます 笑。
ちなみにJR、東武線共にタクシーならワンメーターで来れる距離です。

観光ついでに餃子を食べてから来られる方に独断と偏見で私がオススメする餃子は、
正嗣(まさし)、みんみん、めんめん、餃天堂(ぎょうてんどう)です。
場所はググれば簡単にわかります。全て駅前か街中なのでハシゴも可能です。
もし一箇所で食べ比べしたい場合は正嗣、餃天堂は除外されますが「来らっせ」で検索して下さい。
正直、今夜は餃子の気分じゃないんだよなぁという方は、
牛肉なら世里花、豚肉なら炭家、魚料理だったら海蔵で検索して下さい。

それぞれの時間を各人が有意義に過ごした上で、
今夜は是非、私のワークショップ『映画の日 #1』を何卒宜しくお願い申し上げます。
映画について、管理人が心を込めていま静かに語り始めます。21時開始です。

Kutmah - 'Bury Me By The River (feat. Gonjasufi)'